ブルーラジカル治療を半年行っての所感

2025年10月02日(木)

その他

今回は、当院で3月より診療を開始した歯周病治療器「ブルーラジカルP-01」の治療についての、私なりの感想および今後の展望について少しお話ししたいと思います。

歯周病とはどんな病気か?

まず始めに、そもそも歯周病とはどのような病気なのか、について整理したいと思います。

歯科医院で扱う病気は大きく分けて、「虫歯」「歯周病」「その他(例えば粘膜の病気やがんなど様々)」に分けられます。

虫歯というのは皆さまご存じの通り、歯の表面が溶かされて、歯自体がなくなってく病気です。一方で、歯周病というのは歯の表面についた汚れが原因でなる病気ですが、歯自体の形が変わるわけではありません。歯を支えている、まわりの歯茎、そして歯茎の下に隠れているあごの骨が溶かされて変形していく病気です。歯にくっついた汚れを、口の中に無数にいるばい菌(歯周病菌)が食べて毒を出し、その毒によって歯茎が腫れたりあごの骨が解け、結果として歯が緩んで最終的には抜けてしまう病気、これが歯周病です。

歯周病の体への影響

以前盛んに言われていた「歯槽膿漏」もこの「歯周病」と同じ意味になります。実は多くの方がかかっていると言われている歯周病、発症は早ければ10代から20代と若く、初期は自覚症状に乏しいため容易に悪化し、結果として成人の患者さんの歯を抜かれる原因の病気№1が歯周病となっております。また、厚労省のデータでは、50歳の方の約半数に歯周病の原因となる歯周ポケットが認められました。この歯周病は単に歯を失う原因だけでなく、糖尿病や心臓病、骨粗鬆症や肥満、認知症や誤嚥性肺炎など様々な全身の病気とリンクしていることが分かっています。

世界と日本の歯周病の違い

さて、この日本でも多くの患者さんがいる歯周病、世界に出てみるとこの病気の傾向と特徴があります。世界的に成人の半数以上が何らかの歯周病に罹患しているとされていますが、欧米では歯周病への予防意識が高く、歯周病の重症化率は低めです。一方、日本では定期検診率が低く、中〜重度の罹患者が多いのが特徴です。また、発展途上国では医療アクセス不足により重症例が目立ちます。日本でも苦戦している歯周病の治療ですが、東南アジアなどの発展途上国に至っては歯科医院での定期健診の概念がないこと、また医療レベルの問題などで歯周病が悪化する傾向にあります。

これまでの歯周病治療とは?

そんな歯周病ですが、従来の治療は一貫して歯についた汚れを取ることです。歯の表面について固まった歯石を取ることが歯周病予防の近道になります。具体的には歯茎の周りに見える歯石を取るクリーニング、歯茎の中に隠れている歯石を取るSRP(スケーリング・ルートプレーニング)、また歯茎の中にある歯石は見えないため、歯茎を剥いで見えやすくしてから取る歯周外科治療があげられます。これらに共通することとは、歯の表面についた汚れ、いわゆるばい菌・歯周病菌の餌を取り除くことで歯周病を予防、治療していくということです。ここで肝心なのは、歯周病菌本体をやっつけているわけではない、ということです。したがって歯の表面にまた食事によって汚れが付けば、適宜それを取らないと歯周病菌が餌にして歯周病が進んでいくことになります。今までの歯周病治療は世界中、どこにいってもこの「お掃除」が基本で、「歯周病菌をなくす」ことについての治療はありませんでした。

ブルーラジカルが作られた経緯

そこで、「歯周病」の原因である「歯周病菌」本体をやっつけられないか、と開発されたのが「ブルーラジカルP-01」という機械です。

ブルーラジカルの開発が開始されたのは東北大学の菅野太郎教授の元、2000年代より、10数年の研究の結果、2023年7月に厚労省の薬事承認を経た、歯科界での初めての機械となりました。今までのクリーニングに使用している超音波スケーラーと呼ばれる機械は、とても一般的でほぼ100%の歯科医院にあります。この機械を使用しての治療というのは厚労省の認可や治験を経ての承認などなく、「今まで使用してみて、なんとなく効果があるからみんなやっている」という代物です。この機械は世界中で浸透していますが、日本においては治験を通してない、経験則に準じたものであるだけです。しっかりと研究や治験を通して、効果が実証されている初めての機械となるブルーラジカル。医科の世界では、治験や厚労省の認可など当たり前の世界ですが、歯科においては、そのような概念に乏しく、一昨年に初めて認められたこと自体がとても画期的なことでした。

ブルーラジカルの仕組みと概要

このブルーラジカルという機械は、普段我々が行うクリーニングに使用する超音波スケーラーと同じような見た目で、先端から3%過酸化水素水を噴射し、そこに405nmの青色レーザーを照射することで効果を発揮します。この過酸化水素に青色レーザーを当てることで、ヒドロキシラジカルという活性酸素が発生し、この活性酸素が歯周病菌を殺菌することができます。いままでは、歯周病菌の餌を排除することで歯周病菌が増殖することを防いでいましたが、歯周病菌自体を殺せる、世界で初めての機械がこのブルーラジカルとなります。抗菌剤耐性の菌にも効き、周囲組織へのダメージが少ないため、治りも早いのが特徴です。99.99%の殺菌ができるのがこのブルーラジカルのうたい文句となります。

ブルーラジカルの適応症は?

適応症としては、中等度から重度の歯周病となります。歯周ポケットの深さとしては6mm以上が適応症となります。これは歯の周りすべてでポケットが深い必要はなく、一か所でも深い場所があればそこを重点的に殺菌することが治療になります。

ブルーラジカルが発売されたのが去年の4月ごろ、当院は8月に購入のためのセミナーを受け、今年3月より治療を開始いたしました。

ブルーラジカルを半年間行った結果

ブルーラジカル治療を行うにあたり、導入のためのセミナーなど事前に情報収集を行い、自らも治療を受けてみてから一般の患者さんへ治療を開始いたしました。現在まで約半年、約40名100本の治療を行った私の感想としては、特に中等度の歯周病によく効く、ということです。ブルーラジカル治療は一回の治療で約5分程度、患部に照射するだけの治療になります。従来では、クリーニングに追加してポケットの深い部分までガリガリと歯を半ば削りながら歯石をとる作業を繰り返して行っておりましたが、このブルーラジカル治療は麻酔の注射を行った上ですが短時間で改善を期待できる治療となります。ブルーラジカルを一度当てただけで、出血や排膿、腫れがなくなったという患者様が多く、日々治療の効果を実感しております。一方で、歯周ポケットが10mm以上、歯の揺れが大きい場合にはこのブルーラジカルの効果は限定的だ、とも感じております。ダメ元で抜けそうな歯にブルーラジカルを当て、約1か月後に抜けてしまったことも経験致しました。ここまで半年間の経過、もしくは他の歯科医院での事例を見る限り、中等度の歯周病を短期間で改善させる機械、として活用するのがよいのではないかと思っております。患者さんの感想としては、多くの方が短時間で治療が済むので楽だったという声が多く、治験では10%ほどに出ると言われている術後の痛みもほぼない方がほとんどでした。

ブルーラジカルの今後の展望

今後のブルーラジカルの展望としては、まずは導入歯科医院の増加です。現在、約500を超える歯科医院が導入しておりますが、全国で60000件を超える歯科医院の数からすると1%にも満たないため、まだまだ治療として浸透していないです。原因としては販売から間もないこと、治験を通った厚労省認可を受けている機械であるという認識が薄い、機械自体が高額、であることがあげられます。また、今後は歯周病治療だけでなく、虫歯や神経の治療など他の分野への応用も期待されます。さらには海外への機器の販売が行われれば、海外からの臨床データが蓄積され、結果として国際的な評価の向上も期待できます。

このブルーラジカル治療は低侵襲かつ高効果が期待される歯周病の新しい選択肢になります。今後は日本国内の患者さんのみならず、世界各国の歯周病に困っている患者さんへの選択肢の一つとして普及していくことが期待されています。当院でも最新の情報を患者さんへ還元し、今後もブルーラジカル治療を含めた有意義な歯周病治療を提供していければと思っております。